Keyword:辿々しい読み方 逐語読み 音韻からの理解 概念の理解
知的障害特別支援学校で勤務していると、あたかも一文字一文字が独立しているかのようにたどたどしく話す(読む)お子さんに良く出会います。(こういう話し方のことを「逐語読み」と言います)
例えば、「『よろしくお願いします』って言うんだよ。さんハイっ」と、伝えると「ヨ・ロ・シ・ク・オ・ネ・ガ・イ・シ・マ・ス」といった感じ。「違うよ、違う、「よろしくお願いします」だよ」なんて、少し早めの口調にしてみても、子どもは少し怪訝な顔をして、また、「ヨ・ロ・シ・ク・オ・ネ・ガ・イ・シ・マ・ス」という。
私の同僚に構音指導の、本当にすごい先生がいるのですが、先日、このことを話すと、こんな風に教えてくれました。
「それはね、書かれている文字で覚えるのよりも先に、音で覚えた物は割とスムーズに読むことができているケースが多いんじゃない?逆に、最近になって書字から覚えた言葉は辿々しいんじゃないかな?」
言われてみると確かにそうなのです。「きゅうしょく」などの、日常の中で何度も聞き続けてきている言葉、それも1年生の段階からずーっと聞き続けてきているような言葉については単語のまとまりが、分かる形で話すことができているのですが、例えば「ひなんくんれん」の様な、たまにしか出てこない言葉になるとにわかに辿々しくなっていきます。生活の中では、例えば「セブンイレブン」なんかはスムーズに言えても、「とうきょうスカイツリー」になるとにわかに辿々しくなってくるのかもしれません。
つまり、音韻から入力して覚えた認知と、概念や書字から入力して覚えた認知は別物なのです。
考えてみると、思い当たるところがありました。
お金の計算を子どもに教えるとき、20までの数の概念までが習得されていて、その先となると難しさのあるお子さんにとって、1000円以下の数の取り扱いは非常に難しい作業となります。しかし、中学部段階以降となると、実際に暮らしていく力として1000円以下の数の取り扱いは、必ずつけさせてあげたい力の一つです。
そこで、どんな方法をとるか?
やはり、音韻から入れていくのです。立て系列のお金そろばんを作って、例えば321円だったら、
さん びゃく
に じゅう
いち
と、「びゃく」「じゅう」という位は、扱わずに、「さん」「に」「いち」という音の並びから、321円というお金を読み取っていくわけです。そこには100が3つで300、10が2つで20、1が1つで1という様な理解とは別の理解が働いています。
話は戻って逐語読み。私たちは毎日接していると、この逐語読みがあまり気にならなくなってしまいますが、「もっとスムーズに話すことができるといいな」という要望が上がってきた場合には、言語そのものの力を押し上げて、会話の全ての言葉がおしなべてスムーズに発音できることを目指していくことの一方で、音韻の固まりとして捉えることができている言葉はどれだけあるのか、また、スムーズに話すことができて欲しい単語の優先順位はどうなのか、といった視点から見ていくと、目標を数値化して、より前向きに言語指導が行えていくのかもしれません。
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